激甘LOVE

感情の記録とか

夢みたいな

2022年12月31日、担当が卒業する。

アイドルは今までずっと好きで色々な人を応援してきたけれど、ジャニーズを応援するのは初めてで「担当」と称するのも初めてだった存在(他のアイドルって大体「推し」なので)、Sexy Zoneマリウス葉さんが12月27日の午前にグループからの卒業と芸能界からの引退を発表した。

アイドルが表舞台から去るまでにファンが心の準備をするには5日間というのはあまりにも短い。短すぎる。

けれど私の心に落胆も失望もなく、湛えるような寂しさはいっぱいにあるのに幸せで、冬の晴れた朝のように爽やかな喜びが駆け抜けるようだ。なんならスキップだってできるかもしれないくらいに。泣きながらスキップするのは気色悪いのでやらないけれど。

これはきっと一生の担当になる人がアイドルを辞めることになった人間の、ごく短い間の感情の記録になる。年が明けてからのことはまだわからないけれど一旦彼と、彼の所属するグループの素晴らしさについてどうしても今のうちに書いておきたいと思う。

 

いきなりになるが、誤解のないように言葉を尽くすということは難しい。

アイドルとファン、という意思疎通が取れるようで取れないような距離はもちろん、長年同じグループとして活動するメンバーも、所属する団体も、家族や友人間でも相互理解を放棄することで断絶や失望を招くことは少なくない。

アイドルのファンをしているとしばしば「勝手に失望する」みたいな事案が発生したりするのだけれど、人は本当に都合よく勝手に失望して己を慰めているときもあれば、それが相互理解の諦めとか断絶によるもので如何ともし難く泣くしかないこともある。

説明すれば納得できるものではない感情の問題もあるのは重々承知の上で今回マリウスとSexy Zoneが私たちファンに向けて、そしてこれからファンになる人に向けて、関係者や、世間およびあまり彼らを知らない人たちにまでしてくれたことは、これ以上ない、いっそ夢の実現と称しても良いような素晴らしいことだった。

長年ドルオタというものをして、数年ジャニーズを齧っただけの人間である私も今尚少しだけ絵に描いた餅を食べているようなふわふわした気分でいる。

本当にこんなに上手くいくことがあるのか、と疑わしい気持ちも少しだけある。もちろん彼らではなく現実の方を疑っているという意味で。

ただ彼を惜しむ気持ちだけでいっぱいになった静かな心は間違いなく彼らが勝ち取ってくれた現実であるので噛み締めて大事にしようと感じている。

30日の午後にマリウスが最後のブログを投稿してくれたけれど、寂しさと同時に「言葉に表せないほどの幸福感と喜びと誇らしい気分」もあると言ってくれている。まさにそうで、そしてそれは間違いなくSexy Zoneが大切なメンバーであるマリウスと、それから私たちファンにしてくれたことに起因する気分であり、マリウス自身も体調が完全には復調しない中やりきってくれたことの証左でもある。まだ一つカウントダウンコンサートというセンテンスは残っているけれど、きっと張り詰めていた緊張からは解放されているから言ってくれたのだと思う。

 

最初に、アイドルというのは一生アイドルでいることもできるしアイドルを辞めることもできる。

当たり前のことをと思うかもしれないが、このアイドルを辞めるとかグループから抜けるとか、別の事務所に行くとか、そもそも芸能活動を引退するとかいうことは、人の注目を集めること、ひいては集まった人々が個人やグループを価値あるものと認識しているだけ普通に職を辞することよりタイミングややり方が困難であり、正しい幕引きが行われない場合は大いに混乱を招くことになる。しかもその正しい幕引きというのは誰が知っているというわけでもない。

私は常々なんでアイドルがキャリアのゴールじゃいけんのだと忸怩たる思いを抱えているので簡単に言うことは憚られるけれど、女性アイドルであれば大抵は彼女たちが別の道を選択するとき、卒業コンサートというセレモニーがある。そこでメンバーや、ファンにメッセージを贈ったりファンはラストステージを目に焼き付けて涙したりする。それがまあ区切りをつけるためのお別れの儀式だ。突然居なくなるやむを得ない事情がない限りはスキャンダルや事件のような扱いにはならない。

しかしこれがジャニーズとなると違う、と感じる。ジャニーズ事務所のアイドルは羨ましい(と他人事のように敢えて言おう)ことにコンサートをやりながら俳優もバラエティも舞台も、もしかしたらやろうと思えば自分のやりたいことはなんだってできる(もちろん現時点でままならないことは配信とかチケットシステムとかたくさんあることは承知の上で)し、ファンも入れ替わりこそありはすれど長く芸能界に居ることを前提として見ていると思う。だからこそその幕引きはまるで事故やセンセーショナルな事件のように扱われたり、ともすれば本人やメンバーの意向を無視したり本来着地点として目指していたところではない場所に不時着したように見えたり、もしかしたら本人やグループやファンに焦げ跡のようなものを残してしまうような印象すらある。

Sexy Zoneがマリウスに、5人で話し合って用意した卒業への花道は、そういう意味でジャニーズからの退社という言葉からかけ離れたものであったし、ファンとして想像していたことの範囲を超えて人との対話を諦めず、お互いへの優しさに溢れて、人間の善性を信じている人たちのやり方だった。真摯であり軽やかで夢に見るように美しかった。こんなことが可能なのか、と何度でも驚いてしまう。大仰な形容になるけれど真実そうとしか表現できないのだから許してほしい。

 

12月27日に卒業発表があった日、私はめちゃくちゃ寝ていた。起きたらタイムラインのざわめきを察して動画を見に行って、見ていたらゲリラインスタライブが始まって終わっていた。寝ている方が悪いのだけれどこれにあるように当日からの情報量がまず怒涛だった。

卒業します、だけではなくその経緯、メンバーの意向、そして何より5人の姿を残してファンにも見せるためにインスタアカウントを開設し、東京ドームでは収録も行いその映像が年明けに公開されることが告知され、さらには今5人で旅に出て一緒に居ます、その模様はインスタで届けます(という告知を見ている時にはもう届けられていた)、カウントダウンコンサートには5人で出ます、先日のドームライブとクリスマスパーティにはマリウスも居て実は楽しく過ごしていました!なんて言われたのも同じくらいだ。衝撃と衝撃をぶつければいいというものではない。把握するまでしばらく右往左往していたような気がする。

 

マリウスの挨拶には体調を崩して療養を経てからスペインの大学に編入した経緯、「日本の芸能界に戻る未来図が描けなかった」という決断に至った理由とこれから目指したいことについて書かれていた。

これについてはまずマリウスが自分の現状と目指すものについて展望を描けるまでに体調を回復できて良かったと心から思う。本当に無事で良かったです。マリウスという一人の価値のある存在が生きる目標を掲げて元気にしている、というだけでファンとして満足なところがあるので、安心したというのがいちばんだった。

芸能界から去る理由についてはどちらかというと「ここまで理由を言語化できるなんて」という感動の方があった。自分の心を明文化することって本当に難しいし、それを他人が納得できる形で言葉にするのはもっと難しい。きっと何度も自分に問いかけ、メンバーと話しあって出た結論がそこに書いてあるもので、それまでにこの文章はたくさんの試行錯誤を経てきたのだと伝わってきた。

私ももちろん彼のファンなので休止中に考えなかったわけではない。「マリウスはきっとアイドルとして、Sexy Zoneとしての活動は好きだろうけど、日本でアイドルをする上で本当に必要なことだけで立身することはなかなか難しいのではないか。そこに嵌まるピースを見つけるってできるのかな」ということを。そして考えている間、これだという回答が出ることはなかった。ジャニーズはなんでもできるけれど芸能界そのものを変えるにはきっと途方もない時間がかかるだろうし、本当にそれで動くかも正直わからない。その辺りはきっと彼らが善くあろう、人間の善性を信じようと毎回信頼のカードを出していたとしても賢いが故に冷徹な視線を持って理解できたことだと思う。だからこそマリウスも卒業に際してその言葉を選ぶことができたのだ。

 

そうして感動している間に始まったインスタの通知が追いつかないほどの更新、ファンやお互いに対する言葉の応酬は彼らの絆や言葉が嘘ではないことの何よりの証左で、下衆な勘繰りや関係者でもない関係者が吹聴した戯言など吹き飛ばす強さがあった。

賢さとは武器であり、知性とは力であること、それが勝つこともあると証明してくれる感動的な出来事になった。これからも善なるものの勝利を信じたいと思うけれど、人生でこんな稀有な体験をすることはもうないかもしれない。願わくば日常になってほしいけれど。

まずマリウスの卒業はどこからも漏れることもなく公式によって私たちに伝えられた。同時刻同時間帯に(寝ていた私のようなものは別として)、彼らの口から聞くことになった。これは聡ちゃんの復帰に際してもそうだったが、彼らの周囲は信頼できる人間ばかりで、当然とはいえ芸能界では残念ながら多数居ることが明らかな職務上の秘密を漏らす人物は存在しないことがわかる。

その時点で驚嘆するのだけれどマリウスは東京ドーム、京セラドーム4公演を全て見ていたという。私も4公演しっかり楽しんだけれど全然知らなかったし、もしかしたらと可能性を感じていた人は居ても明らかにそれとわかる情報は何も流れていなかったと思う。東京ドームなんて追加で収録もしているというのに。

例えばその時点で漏れていたら大変な混乱だったと想像に難くない。ドーム公演が終わって一日空けた27日、しかも仕事納めがあってほとんどのメディアが年末年始の特別営業に変わる12月末というのは、公演が直近であったからとはいえ相当にクレバーなタイミングの見極めだ。それから連続でインスタ更新。きっと時間があれば憶測や中傷の言葉に踊らされ、前が見えなくなってしまうファンも居たかもしれないが、その時間もなく私たちは彼らの美しく愛らしく仲の良い姿に釘付けになった。あとセクシールーレットとかいう飛道具みたいな縁起物がバズって本気で楽しくなったりした上でSexy Zoneさんはファンを増やしたりした。

余談になるが以前友人に「Sexy Zoneはバズる才能がある」と言われたことがある。確かに今でも菊池風磨くんの吹っ切れスキすぎてがデジタルタトゥーとして残っていたりするように、力がなかったわけではなく、それを公式として収束する場所が存在しなかっただけなのだ。そうしてジャニーズにあるまじきプライベート流出アカウントのような様相を呈しながら(ジャニーズの他のインスタアカウントを見たら公式の写真とか動画とかスタッフオフショットばかりで、Sexy Zoneさんのように個人のスマホからばんばん投稿した画像が見られるということはありませんでした。それはそう)楽しさと寂しさと全然関係ないお祭りムードに引き寄せられた人たちも巻き込んで、Sexy Zoneはあくまで明るくカウントダウンに進む。

 

30日に佐藤勝利さんが、31日にマリウスの相棒である松島聡さんが寂しいけれど笑って送りたいという旨のブログを更新してくれ、ファンも一緒に寂しいと泣いた。これからお兄ちゃんたちが何か言ってくれるかもしれないしもしかしたら言わないかもしれないけれど(ケンティーは素敵な髪色を公開してくれたので最高)、メンバーがずっと一緒に居る方法を探っていたことは想像に余りある。それでも送り出すこと、彼が寂しさを感じながらも前向きに出ていくことができる道を整え、やり切ったことはこれからもずっと誇らしく感じられると思う。こんなに素晴らしい門出を対話と知性によって作り出したことをSexy Zoneは世界中に喧伝して回ったっていい。

 

ドームコンサートの話になるが、タイトルをザ・ハイライトとしたそのコンサートは、ハイライトとは言いながら明確に、最近のシティポップや洗練された曲メインの構成になるきっかけの曲などが抜けていて「かまし」が少なくファンや彼ら自身を振り返り「寄り添う」ような仕上がりになっていた。最初に聞いた時には「ドームコンサートの最初のアンカーとしてこれを作っておいて次はかましの曲ばっかりでやるのかなあ」なんて思っていた。もちろん構成は素晴らしかったし楽しかったのだけれど。

そんなはずはなかった。PAGESで感動搾取することなく聡ちゃんとそのファン、それを待つ自分たちへの物語を作って見せた菊池風磨が、ただ考えもなしに過去の曲を並べるはずがないのだ。

勇気100%からForever Goldに繋がりDreamで本編を終え、アンコールの最後の曲をCongratulationsにしたのは客席で見ているマリウスと自分たちへの明確な餞でもあったということを今となっては理解することができる。夏ツアーからのドームの演出やセットリストのことは書きたいなあ、と思いつつこんな年末で大変なことが起きているけれど、いつか書けたらいいですね。

 

12月25日のドームオーラス公演のアンコール日替わり曲はSilver Moonだった。

私はこの曲を歌っている彼らを最初に2018年repaintingツアーのBlu-rayで見たのだけれど、その後過去公演で歌っていた映像に衝撃を受けたことを良く覚えている。

Sexy Zoneはその歴史の中に明確に本人たちの本意ではない格差と分断のあったグループなのだが、過去映像のSilver  Moonではマリウスと聡ちゃんは明らかに簡素な衣装で、他の3人が一段高い場所で歌っていた。そしてきっとそれを明確に覚えていたのだろう2017年、STAGEから演出するようになった風磨くんは同じ曲を同色の白い衣装で、そして高さの変わるステージの上でメンバー全員がいろいろな高さに入れ替わる演出で再びセットリストに入れたのだ。

アンコールで客席を回りながら歌う彼らを見ながらそのことを思い出した。

今回のことだけではなく知性と理性とその善くあろうとする心を貫いてきたからこそ今の彼らが勝ち取ったものがあるし、寂しい中でも清々しく居られる、誇り高く在れるのだと思う。

 

私がマリウスを好きになった理由にはその甘い声と、愛されて自分を愛しているとわかるふるまいがある。

成長して思慮深さに加えてたくさんの知を獲得した彼が、変わらず愛され、その上でグループやメンバーと理性と優しさによる相互理解を経て、満たされて旅立っていくことを私はファンとして喜びたい。

本当に寂しいしまだまだアイドルとしての彼を、ステージの上で見たかったものもたくさんある。これからもきっと「マリウスがこの歌を歌っているのが聴きたい」「マリウスが居るパフォーマンスが見たい」と思うことはたくさんあるだろう。

それでもきっと彼が私に見せてくれたものと、メンバーが作ってくれた夢みたいな花道であるこの5日間があるから私は幸せで、大丈夫だ。

京セラドームの帰り道、同じマリウス担に「もうこれで大丈夫だよね」と言われたことを、それに頷いたことを忘れないと思う。発表がなくても伝わった言葉は確かにあって、彼らは想像したよりずっと素晴らしい人たちだった。

 

まあこれから国際弁護士の推しができるかもしれないわけだから、生きていかなければ。